樹の聲を聞く - 木地師 西田恵一

つくり手は素材との媒介者でもある。
卓越した技術と共に素材の馨を聞く職人たち。
木地師 西田恵一さんの言葉をご紹介します。


これまでに出逢った木地師、彫師、大工の方々の中でも、繊細な仕上げをされる方ほど、当り前のように樹と対話しながら仕事をしていると話してくれます。

目の前にある木材はただの「材料」ではなく「樹」であり、それぞれに生きた歴史と個性が宿っていると捉え、波長が合えばすんなり進み、無理に矯正しようとすれば反発される、形作る手の中で、職人の皆さんは樹のことばを聞いているのです。

「樹が生きてきた年月に恥じないものをつくる」

これは曲げの木地師 西田恵一さんが常々仰る言葉です。使う材料には樹齢数百年にも及ぶヒノキも多くあり、「自分よりもずっと前から生きてきた樹に対して中途半端なことはできない。その年月に敬意をもって相応しいものづくりをしないと申し訳ない。」と。

その想いは、どこで重ねたかわからないほど一枚とぴったり同じ厚みに削られた板合わせ、綴じに桜皮を通すには穴を開けるのではなく、繊維に沿って隙間を拡げるなど、繊細な美意識と木地への負担を限りなく減らした技に表れています。

湯に浸けてあたためながら木地を曲げる作業は、焦れば折れてしまうので、手の感触を頼りに様子をみながら、施術するようにゆっくりと曲げていきます。

西田さんの作品を手に取った誰もが清々しい気持ちになるのは、そういう思いが込められ作られているからでしょう。

西田さんの相手をリスペクトする姿勢は、樹齢何百年の木材だけでなく、小さな苗木や桜の皮、道具、技を繋げてきた先人たちにも向けられます。工房に伺う毎、神聖な場に入った気持ちになるのは、そこに積まれた木材の誇り高き存在感と、西田さんのあらゆるものに対する畏敬の念が満ちているからかもしれません。

木地師 西田恵一(木地工房西為
飛騨春慶塗木地師。伝統工芸士。高山市内にて飛騨木工を継承する3代目。素材の美しさを引き出す眼と技術によって「曲げ物」を中心に漆器の木地や茶道具の工芸品を手掛ける。風光ルも参画する飛騨地産漆の再生に取り組む「NPO法人飛騨漆の森プロジェクト」の理事を務められている。

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